2015年の研究開始当初、「今回私たちが研究する主体性」の定義を検討した。

「主体性」を国語辞典で引くと「自分の意思・判断によって、みずから責任をもって行動する態度や性質」[1]などとあるが、障害のある人の長期の改善につながる主体性を議論する際、この定義では不十分だと考えられた。
たとえば、発症から長期間が経った障害のある人が、自らの意思で「この手が動くようになるまで外来でリハビリテーションをしてもらいたい」や「歩けるようになるまで入院でリハビリテーションを続けたい」などと希望した場合、自らの意思と判断なので、辞書上の定義としては主体的ともとれる。しかし、これではほぼ回復しない機能障害に対して漫然とゴールのないリハビリテーションに時間を費やすことなって、障害のある人の生活は変わっていかず、展開もしていかないと思われる。
「手を使うこと」「歩くこと」は生活の手段である。手の動きや歩くことの先の「生活上、何をしたいか」という活動や参加の目標が生活期を豊かにするうえで重要である[2-4]
「お気に入りのレストランで食事がしたい」のであれば、そのレストランまでの道のりや障壁が具体的になり、現状の課題も具体的になる。目的地までの移動方法として歩くだけでなく車いすも併用するなどの補装具を考えることや、レストランのトイレを想定した練習をすること、介助者の指導やお店にお願いする合理的配慮なども具体的に想定される。
リハビリテーションで機能向上だけでなく、適切な補助手段も用いて生活の幅を拡げていけることになる[4,5]
意志や動機づけが「機能レベル」や「ADLレベル」にとどまっていると、主体的に生活を構築しづらいので、「自分らしく生きるために」という視点からの意志や動機づけが重要であるとの観点で検討し、生活を豊かにする活動や参加を「自分らしく生きる」と仮に定義した。
本研究で取り扱う「障害のある人の長期の改善につながる主体性」とは「自分らしく生きるために、自分の意志・判断によって、みずから責任を持って決定または行動する態度や性質」と定義して研究を進めている。

 

1.     松村明 (2006).大辞林第三版,三省堂.

2.     長谷川幹 (2009). 主体性をひきだすリハビリテーション : 教科書をぬりかえた障害の人々, 日本医事新報社.

3.     村井千賀 (2015).生活期リハビリテーションの課題と介護報酬改定.Monthly Book Medical Rehabilitation 188, 7-12.

4.     和田真一, 水間正澄, 川手信行 (2014). リハ医療システムと今後 生活期リハ. 昭和学士会雑誌 74(4), 384-388.

5.     土井勝幸 (2015).生活行為向上リハビリテーションの考え方と実践.Monthly Book Medical Rehabilitation 188, 33-39.