脳損傷などによる中途障害者において、
障害のある人の回復を促すと考えられる
「主体性」について研究しています。
その動機、背景について記します。


一般に脳損傷などで障害が残存した場合、
発症当初は、
医療者主体で治療やリハビリテーションが進み、
患者は受け身で依存的な立場になります。
それ自体は自然なことだと思います。

また、
退院したころの中途障害者の心理面の特徴として、
「受傷前を基準にして現在を比較する」ため、
麻痺が発症当初と比べて改善していても、
いつまでも「よくなっていない」と考えたり、
歩けるようになっても、以前と同じように歩けない姿は
「みっともないので見られたくない」
と閉じこもる傾向となったりすることがあり、
総体として極めて自信がない状態となっています。

しかし、
発症から数年経っていても、
できないと思っていた楽しみや
役割を果たすことができた体験などで
少しずつ自信を取り戻し、
主体的な姿勢へ転換したことにより、
自分の生活を自分らしく
マネジメント(展開)できていくケース
を経験することがあります。


「主体性」を持って
新たな生活の構築ができてくると、
能力面でも半年~年単位の
ゆっくりとした回復がみられることもあり、
発症以前にも増して
活動的に生活している障害のある人もいます。


医療者としては、
障害のある人の機能回復を図るのは重要ですが、
病気の特性としての限界もあり、
障害がありながらも
「主体的に自分の生活を自分らしく構築する」
ことが長期的には重要と考えます。


発症から長期の障害のある人が
新たな生活を構築していくうえで
「主体性」が重要な役割を果たしている
と考えられますが、
「主体性」の概念が定まっていないため、
障害のある人に携わる現場には広まっていません。

長期的に良くなったケースは
個別の事例として、特別扱いされて、
一般化されていないことも要因だと思われます。


発症後早期の絶望感、不安感、自信喪失などを抱えた状態から、
活動的に自分らしい人生を歩んでいける
主体性のある状態になる過程は
人それぞれで多様ですが、
一定の傾向がないわけではないと考えます。


研究を開始した2014年ころには、
障害のある人の「主体性」を測る指標もなく、
その概念すら定まっていませんでした。

障害のある人の回復を促す「主体性」の概念が分かり、
「主体性の回復プロセス」について
ある程度の一般化がなされれば、
現場や在宅での
障害のある人の回復を促すかかわり方の一般化
にも役に立つと思われます。



上記の背景から始めた質的研究の結果は、
以下の3つの論文にしています。

  1. 障害のある在宅脳損傷患者の長期的な回復につながる主体性の概念.対人援助学研究 2018;7:71-78.
  2. 脳損傷による中途障害者の長期的な主体性回復のプロセス.Jpn J Compre Rehabil Sci 2019;10:29-36.
  3. 脳損傷による中途障害者の長期的な主体性回復のプロセス:Ⅱ.主体性回復を促す周囲のかかわり方.Jpn J Compre Rehabil Sci 2019;10:50-59.